麒麟がくる第三十六回感想「訣別」鳥のように去っていく光秀

2020年12月14日

麒麟がくる

とどでございます。

タイトル通り、光秀は将軍と訣別しました。将軍と信長の間で行ったり来たりの胃痛枠でしたが、将軍の足利義昭は「もう我慢ならん!」と信長と戦う決心をしたようです。

上洛にあたっては信長の力を借りたのは確かにそうなのですが、将軍をすっ飛ばして御所へ通っている信長を見るのもいい気はしないでしょうから対立もやむなしなのかもしれません。

光秀は信長と戦うことには賛成できず、将軍の元を去りました。どちらかを選ばなければならないのは辛いですね。

珍しい鳥が来ました

御所に向かう三条西実澄のお供として光秀も一緒にやってきました。庭で待っている間に三条西さんが「庭に珍しい鳥がやってきました」とオサレな奏上をキメてくれました。雅ですね。

立場上直接会うのは難しかったようで、「この詩のように生きたいんだよね」みたいにお手紙で返信。この詩とは三条西さんが奏上していた詩で要約すると穏やかな世を描いた詩でした。手紙をもらった光秀は庭を挟んで会話することに。いえ、決してソーシャルディスタンスを意識したものではないんですよ。

信長ですら帝と会うのは特例扱いでしたから、光秀の立場だと直接会話はNGなのかもしれませんね。庭を挟んで会話していたのも、それぞれが独り言を言っていた、みたいな建前があるからギリセーフみたいな感じでしょうか。

当時の状況を考えるとこういう立場を考慮した振る舞いも大事になってきます。幕府が摂津を中心として好き放題して、三好も京を荒らして、と帝の求心力が若干下がってしまっていた状況では、気軽に光秀に会うと「よく分からん人まで会うなんて」といらん噂を立てられてしまいますからね。

「目指すはいずこぞ」→「穏やかな世でございます」→「その道は遠い、なれど迷わずに歩もうではないか」と一緒にいこうぞ的に返してもらっては光秀も感動してしまいます。まさに雲の上の人から一緒にがんばろうぜと言われたんですからね。しかも「明智十兵衛、その名をしかと胸に刻んだぞよ」と名前まで覚えてもらいました。すごいことです。

佐久間信盛いい人では?

光秀が御所に行っている間に信長の家臣である佐久間信盛、柴田勝家、木下藤吉郎が光秀を訪ねてきました。目的は公方様から召集がかかった松永久秀討伐について。

みんな乗り気じゃないので重い腰を上げてのことでした。この松永討伐も、信長を釣り出す罠だなんて秀吉が行ってましたが、これはありえた線ですね。

会合を終えたあとの別れ際、佐久間は「比叡山焼き討ちの時には女子供を助けて、信長様にはっきりと物を言ったと聞いた。この戦でも殿に直言してほしい」と光秀に告げました。

後年、例の折檻状のせいで佐久間信盛は無能の象徴みたいに言われていますが、比叡山の件から心離れもあったのかも? といい人ルートが見えてきました。

変わってしまった公方様

二条城を訪れた光秀の目に飛び込んできたのは剣術に励む公方様。元々出家していたので剣術の心得はなかったのですが、武家の頭領として学び始めたみたい。

家臣たちの接待プレイで自信をつけていたようでしたが、こと剣に関しては手を抜かない光秀にあしらわれて自信を無くしてしまったようです。

刀を持たない将軍として平和な世を目指していたはずの人が、武力でもってそりが合わない人間を排除しようとする姿に、「あんた……変わっちまったな……」と言いたげな光秀の目線が刺さります。

あの頃の義昭様はどこへやら。

坂本城が板挟みのメタファーに

今回は光秀と煕子どののいちゃつきがクローズアップされていました(笑) これから話がどんどん動いていくことを思うと、一種の清涼剤のように感じます。

光秀が築城している坂本城は京と美濃の間にある城。それもあってか煕子どのは「今どちらに心を惹かれていますか」と光秀の迷いを見抜きました。離れて暮らす期間も長かった中、光秀の心の内をしっかりと理解している煕子どのは素晴らしい人ですね。

光秀はこの時点ではどちらも大切に思っているので選べない状態でした。お世話になった人たちがお互いに争っているのは本当に胃が痛いものです。

坂本城は天然の要塞のように山や湖に囲まれる場所に築城されていて、ルイスフロイス曰く安土城と並ぶくらいに豪華絢爛な城だったとか。

光秀の決断次第で将軍か信長のどちらかと戦うために使うことになることを思うと気が思い築城かもしれません。

信玄、立つ

将軍の足利義昭は信玄に協力を要請して、信長の勢力を削る作戦に出ました。信玄は元々信長とは同盟を組むくらいには中立的でしたが、比叡山延暦寺の焼き討ちを受けて、仏教を信仰する信玄にとっては許せない敵になりました。

信玄はまず浜松にいる家康を狙うことにしました。

このエピソード、家康にとってはあわや命を落とすかどうかの瀬戸際になった大ピンチエピソードである三方ヶ原の戦い(みかたがはらのたたかい)でしたが、今回の放送では報告だけで終わっていましたね。家康の一大イベントでしたが光秀からすると寝耳に水くらいの話でした。だってまさに援軍を送りましょう、と話している時にこの報告が来たのですから。

お諌め……という名の罵詈雑言

十七箇条の異見書を義昭に送ったという信長。一部覗いてみると……

「将軍、最近御所に行ってないらしいっすね? 義輝様はそれが原因で命を狙われたのに残念です」

「最近うちの家臣たちに辛く当たっているらしいっすね? 上洛を手伝った織田のものたちを無下に扱うのはなんなんすかね?」

「宿直の人に報酬を渡すならその場でお金を渡せばいいのに、意味のない役職を作って昇格させるのはみんな混乱するからやめてほしいっす」

「光秀が町から徴収した税は将軍の買い物代として渡したはずでしたが、比叡山から徴収したことにしたらしいですね?」

「最近農村部で『悪将軍』と呼ばれていますが胸に手を当ててこの意味を考えてほしいっす」

なんて感じで十七箇条まとめて送りつけたとか。キツいことを言っているのは確かにそうですが、これ、義昭側にも問題がありそうな……。いえ、あくまで信長の主張を信じるならですけど。

お駒さんに届いた手紙にもありましたが、治療院を作るためのお金を鉄砲を買うために使っちゃうという話もありましたし、お金に関してルーズな部分があるのかな? と感じる部分もあります。

戦が無くなればいいのにと思っているお駒さんが渡したお金が戦のために使われてしまうのは心苦しいです。

さよなら将軍様

信長は「十七箇条の異見書はちょっと遠慮なく言い過ぎちゃったから、大切な鳥を送るわ」と光秀に届けさせたものの、義昭は「もう遅い」とつっぱねました。

他の大名と組んで信長を討とうとするのは、光秀にとって見過ごすわけにはいきません。必死に止めますが、義昭は聞く耳持たず、三淵どのも「戦に備えよ」とやる気満々。三淵どのは義昭様のためというよりは、将軍という役職に対して従っているような感じでしょうか。平らかな世を目指していたようなイメージがありましたが、その道筋は光秀とは別になりました。

光秀は泣きじゃくりながら「それはできません!」と撤退。信長を討ったとしても、結局今までと変わらない戦に明け暮れる世の中になるのが見えてしまったのかも。

去っていく光秀の背中に「あいつは籠から飛び立った鳥じゃ。いずれ帰ってくるかもしれぬ」と言葉を投げかける義昭様。冒頭の三条西さんが言っていた「珍しい鳥」の比喩がここでも生きているのがにくい演出でした。

まとめ

この辺りからいよいよ室町幕府が終わりに向かっていく感じがします。信長としては将軍が自分を狙うから仕方ない、という形で戦に持ち込んだので狙い通りなのではと思います。

なんだかんだここからあと10話以内で本能寺までたどり着くというのはいよいよ感があります。